3Dプリンタ業界研究 簡易造形から最終製品へ AM2.0とは

3Dプリンタと業界

 

著者紹介:Nekoace(猫壱), PhD, MoT
電機→素材と転職をまたいで一貫して新規事業畑。モットーは「組織で唯一無二のポジションを取り続ける」&「社内政治を科学する」。社会人博士で培った専門性を使った技術コンサルと、新規事業プロマネが得意。学位取得をきっかけにSNSでの情報発信を開始。
【経歴】
修士(理学)
⇒ 電機メーカーにて研究職10年(在籍中に工学博士と技術経営修士をダブルスクールし取得)
⇒ 素材メーカーにて開発職(Now!!)

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こんにちは、nekoaceです。

今回は、一部業界で話題のAdditive Manufacturing2.0(積層造形2.0)について書いていきます。

はじめに

皆さんは3Dプリンタにどのようなイメージをお持ちでしょうか。

最も早く一般に普及したFDM方式(樹脂フィラメントを溶融しながら一筆書きの容量で造形する方式)は、今やアマゾンでも数万円から購入できますし、だんだんとその品質も高まっています。

一方で、産業の用途でも広まり始めていて、主にPBF方式(高出力レーザーで材料を溶かしながら造形する方式)や、BJ方式(インクジェットでバインダー(接着剤)を噴霧し造形物を形成しのちに高温オーブンで焼結させる方式)が知られています(*1)。
このように3Dプリンタは、プリント速度やプリントできる体積、材料の特徴、といった各特性が幅広い製品です。一般に「3Dプリンタ」というとこれら方式をまとめて呼ぶことが多いです。

ところが、近年Rapid Prototyping(ここでは、「簡易試作」と訳します)やAdditive Manufacturing(同じく「積層造形」とします)という言葉が良く使われます。

そして、2020年にはAdditive Manufacturing2.0という言葉が使われるようになってきました。

今回は、これら専門用語がどのように使い分けられているのか、紹介しようと思います。

言葉の定義:簡易試作と積層造形

軽くググってみると、「3Dプリント」「簡易試作」「積層造形」それぞれの言葉の定義について紹介している記事がありました(*2)。

この記事によると、「簡易試作」は、

(以下引用:nekoace訳)
「簡易試作」は、3Dプリントと同義で捉えられがちだが、実際には製品の試作に必要な技術の総称である。NC加工や型成型、鋳造といった技術も包含する言葉である。

一方、「積層造形」は、

(以下引用:nekoace訳)
「積層造形」は、3Dプリントの高度な応用であり、過去10年程度の期間で急速に注目されてきた。~中略~業界標準「ASTM F2792」では、従来型のモノづくりよりも高速で、柔軟性の高い製造方法とされている。~中略~積層造形は、生涯ロット5万個未満の少量から中量生産でよく使われており、高価な金型や新たな製造設備のセットアップに伴うコスト増を抑えるための友好的な手段である。

とあります。
一品物の試作であれば「簡易試作」数千、数万(思ったより多いです!)点製造するのであれば「積層造形」という呼び方が適切なのかもしれません。

一般認知されているのか?

専門家の中でこのように言葉の定義がされていることはよいのですが、一般に浸透しているのかも見てみましょう。下の図は、積層造形(Additive Manufacturing)と簡易試作(Rapid Prototyping)のそれぞれの単語がGoogle検索で検索された回数を集計しまとめたものです。
集計にはGoogle Trend というGoogleが提供しているデータ分析のツールを使い、それぞれのワードが世界中でどれほど検索に使われたか集計し、最大値を100としています。

画像2
積層造形(Additive Manufacturing)と簡易試作(Rapid Prototyping)のグーグル検索回数:Google Trend を利用し作成

 

この図を見ると、「簡易試作」が優勢であったものの、2012年頃を境に「積層造形」が優位となり、ついには逆転している様子が見て取れます。2012年というと、3Dプリンタが製造装置として普及するきっかけとなる出来事が起きた時期です(またどこかで書きます)。
簡易試作から積層造形へと世間の関心がシフトしていることがとてもよく表されています。

普及しているのか?

簡易試作と積層造形の違いを別の角度から。
コンサルティング企業のE&Yは、3Dプリンタの主な使用用途のうち最終製品向けのものが2022年に46%に達すると予測しています(*3)。2016年には約5%、2019年には約20%であったことからここ数年の市場拡大を最終製品向け、つまり「積層造形」の用途が牽引してきたことは疑いが無いように見受けられます。

Additive Manufacturing2.0 (積層造形2.0)の定義

こうした背景の中で、積層造形 2.0とはなんでしょうか。
この言葉を最初に使ったのは、アメリカの3DPをけん引する企業DesktopMetal社のようです。


彼らはプレスリリースの中で以下のように述べています(*4)。
・3Dプリンタ市場は2006年までCAGR9%、2019年まで20%と急速な成長を見せ、かつ成長速度が加速している。今後2030年に向けてCAGR25%とさらに加速していく。
・2030年に向けて成長が加速していく時代を積層造形2.0と名付けており、簡易試作の時代(Research)積層造形の時代(積層造形1.0)に続く時代としている。
・積層造形2.0の時代では、あらゆるものの生産にAMが使われていく

画像1
*4:DesktopMetal資料より

 

DesktopMetal社は、このビジョンに従って業容を拡大しているようです。従来DesktopMetal社が主戦場としていた金属造形の分野から徐々に樹脂や複合材料の造形へとM&Aを駆使して売り上げを伸ばしています。この会社の動きは面白いので別記事を書く予定です。

積層造形2.0という言葉は、DesktopMetal社が作り出した造語のようでした。しかしそのコンセプト自体は普遍的なもので、誰からもわかりやすいビジョンです。今後こうしたビジョンが一般にまで浸透していくことでDesktopMetal社はより強固なブランド価値を築いていくのでしょう(笑)。

まとめに代えて

最後に、アメリカの3Dプリンタ専門メディア 3DPrint.com がわかりやすい図を作っていました(*5)。

イノベーションの世界でSカーブと呼ばれる曲線があります。何らかの新技術は最初は日の目を見ないものの、徐々に注目され成長が加速、一定までくると飽和する、という有名なモデルです。

3DPrint.com が書いたこの図では、2020年までの研究開発の段階(Research & Development)の段階を超えて、2050年に向けて最終製品製造の段階に入るとのことです。

注目すべきはこの段階が2050年まで続くこと。製造業の世界の全需は100兆円を超えるといわれていて、現在の3Dプリンタ市場はたったの1兆円。100兆円すべてが3Dプリンタで置き換えられるとは思いませんが、その成長余地は計り知れないものと感じます。

画像3
3Dプリンタの市場拡大の概念図(*5)

 

3Dプリンタ市場、面白いと思いませんか?
この note ではこういった3Dプリンタに関する市場動向を中心に紹介していきます。調査依頼等も(マンパワーの限り)受け付けますので、Twitterからご連絡ください。

それでは。

nekoace

[引用文献]
*1:”3Dプリンターの方式・仕組み・特徴を解説(2022年最新版) – 3Dプリンターならアルテック” 3d-printer.jp
*2:”3D Printing vs. Rapid Prototyping vs. Additive Manufacturing – What’s The Difference?” empiregroupusa.com
*3:“3D printing: hype or game changer?” Ernst & Young Global Report 2019.
*4:PRESS RELEASE: Desktop Metal to Become Public, Creating the Only Listed Pure-Play Additive Manufacturing 2.0 Company | Desktop Metal
*5:Additive Manufacturing 2.0: The future of metal manufacturing starts now – 3DPrint.com | The Voice of 3D Printing / Additive Manufacturing

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