企業研究者が学会発表すべき3つの理由

企業研究者が学会発表するべき3つの理由 研究と会社
著者紹介:Nekoace(猫壱), PhD, MoT 電機→素材と転職をまたいで一貫して新規事業畑。 モットーは「組織で唯一無二のポジションを取り続ける」&「社内政治を科学する」。
社会人博士で培った専門性を使った技術コンサルと、新規事業プロマネが得意。学位取得をきっかけにSNSでの情報発信を開始。
【経歴】 修士(理学) ⇒ 電機メーカーにて研究職10年(在籍中に工学博士と技術経営修士をダブルスクールし取得) ⇒ 素材メーカーにて開発職(Now!!) X

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  • 企業研究職で学会発表に興味がある、発表が決まっている皆さん
  • 研究成果を学会発表するか迷っている皆さん
  • 企業就職する予定の学生さん
に、博士持ち技術者が企業での学会発表の現状について解説します。
こんにちは、Nekoaceです。
企業で研究開発されてる皆さん、研究活動をしている中で上司に学会発表をしろと言われたことはありませんか?もしくは、発表したいけど許可が下りなかったことがありますか?
学会だけでなく論文発表など、社外に向けた学術発表は大学をはじめとするアカデミアが中心ですが、企業研究者も発表する場合はあります。
企業の場合、ビジネスの観点から外部に出す/出さない情報の判断が非常に難しいです。
今回はそのあたり悩んでいる方の助けになればと思って書いていきます。

はじめに:学会の場合分け

さて、まず学会と一口に言っても色々あります。

アカデミア主体の学会:Nekoaceの場合、理学部出身でしたが、物理学会、応用物理学会等々、研究室で修士の学生が良く参加するような学会はココです。基礎研究はこういう学会になりますよね。

アカデミア/企業混在の学会:応用研究に近づくとだんだんここになってきます。逆に企業の場合はほとんどここじゃないでしょうか?例えば、物理学会の分科会である日本光学会とかになると光関係のメーカー関係者がちょいちょい発表するようになってきますし、同じマンモス学会でも機械学会は多少社会人の方もいる印象です(共著で入っているとかだと結構)。

海外の場合も、やはり、アカデミア主体の学会とアカデミア/企業の学会はそれぞれあって、特に後者だと、学会会場の隣で巨大な展示会併設して、企業の人が発表で「詳しくは弊社ブースへ!」とか言う光景が良く見られます。

企業が学会発表する3つの理由

結論からになりますが、私とその周囲の経験から、企業が学会発表する場合は大きく3つの理由があると考えています。

技術アピール/認知向上

昨今のオープンイノベーションブームもありますが、やはり企業側としてもアカデミア内での認知を上げておきたいということは一般的です。企業としても、直接ビジネスに繋がりづらい基礎的なところは大学にお願いしたいですし、大学としても産学連携で得るものは多いのです。

そのためには、大学/企業いずれも参加している学会の場で存在感を発揮し双方認知度を高めることは有効な施策と言えるでしょう。 また、企業にとって、技術系の大学生があふれている場は有効なリクルートの場でもあります。こういう場で企業が発表すると学生の間では企業の名前を覚えるもので、間接的ですが、修士卒業した学生がエントリーシートを提出してくれる可能性も確実に高まるでしょう。

ビジネス商材

企業の方は、頷かれると思いますけども、外部に出す情報統制はかなりしっかりしています。

企業内で得た実験結果を外部に出す際には、何度も複数部署のチェックを受けてからでないと公開できないことが一般的です。 これ逆に言うと、急に重要なお客様から特定技術の情報開示を求められたとき、事前に学会発表した資料があると情報開示が楽なのです。仮に追加の情報がある場合にも、一度社内チェックを通過した資料があれば補足の説明は通りやすい。

また、特にBtoBの世界では、大手になればなるほどある程度外部公開することも当たり前にはなっていて、マーケティング時にも、関連論文のリストを送付しあうことがあったりもします。そういう意味では、外部発表資料をビジネスにおけるマーケティング資料と捉えていると感じます。

社員教育

これも重要です。特に日本企業の場合はやはり修士卒の学生が研究職として会社に入ります。すると学会など外部発表の経験が無い場合も散見されるのです。としたときにそういった社員の教育の場に学会発表が使われている側面もあるでしょう。

この辺りはかなり学術的ですが本も出ていますのでご興味ある方はどうぞ。
イノベーションの相互浸透モデル:企業は科学といかに関係するか

これら学会発表のモチベーションにつながる三点、いずれも重要な視点で、どれも含んだ形で各社発表されているのでしょう。  

学会発表の許可の取り方は?

このブログを読んでいる方はきっと学会発表したい方が多いのだろうと仮定して(笑)、いかに会社の中で外部発表していくか/発表を認めさせていくかを考えておくことは重要です。

ビジネスもアカデミアも上に行けば行くほど魑魅魍魎渦巻く世界というか、人間臭い/泥臭い部分が強くなっていくものなんですが(ボヤキ)、やはりアカデミアの方の方が自分の意思を通しやすいというようなところはあると思います(その辺はこういう本で学んでください)。

アカデミアはなんだかんだ自分がする研究の決定権は大きいので自由なのです(ボスの方針には従わなければいけないヨ)。

一方、企業の方は、会社のミッションと部署のミッションと上司のミッションに合致してかつビジネス性が見込める分野でないとプロジェクト開始ができないし学会発表に関してはそれをする理由をさらに積み上げなければいけないわけで、サラリーマンが社内調整に忙殺される理由が分かりますね(アカデミアの苦難はよく聞くのですが、企業は企業で大変なのです)。

ということで、結局のところ会社の中でどうやって提案を通すかということについてはまあ会社にはよるのですが、ここではNekoaceの実体験ベースで書かせてもらいます。

自分のプロジェクトのSTPをはっきりさせよう

STP、技術の方だと馴染みがない方があるかもしれませんが、マーケティング用語でSegmentation/Targetting/Positioning の略で、良くある言葉ではあるので説明は本読むなりググるなりしてください。

ざっくり言うと、企業の中のプロジェクトの開発ステージによって、自社がどういう立場で何を目的にして発表するのか意識して戦略を立てようね、ということです。 

一般的には、企業の中での技術開発に名前を付けると

研究(最初の試作品作るところまで/ビーカーレベル)

→ 開発(ちょっと汎用的な試作品つくり/特注機械)

→ 量産(具体的な製品仕様が決まって大量生産はじめるころ/量産機械)

の3つに分類してそれぞれのケースでどうか見ていきます。

 

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ちなみに企業の方が学会発表する場合、社会人の発表は注目して見られます!やはりそこは美しいスライドデザイン聴衆の尊敬を集めたいところ。。。世の中には専門の本がたくさん出てるので一冊買っておくといいですよ!

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パワーポイントスライドデザイン

 

研究段階:特許取得前の場合

この場合、発表はかなり難しい、ですね。

特許取ってない技術は外部公開しちゃいけませんし、まず許可が下りません。

発表できるとしたら、すごく原理的なところ、「ある製品の何という技術の解析技術」とか「ある製品の何という技術のシミュレーション技術」とか。作っている製品そのものの情報は絶対に出せないので、ベースのところ限定でしかも用途も特定されないようにぼかす感じで出さざるを得ません。

前編で上げた三つの理由「認知向上」「商材」「教育」の内、「教育」メインになりがちですね。

開発段階:特許取得後の場合

ここになるともっとナーバスになってきます。

製品にもよりますが、自社で開発しているということはいくつかの他社も開発開始しているでしょう。そして、基本的には特許に出す/出さないところを決めて、出さないところはひたすら隠します。他社の人間が集まるセミナー参加もしないとか、口も利かないとかそういうレベルの戒厳令が敷かれます。

この段階になると、目的をぼかした発表ですらできません。競合に深読みされる可能性が出てくるので。 まず、発表不可能、と考えた方が良いかもしれません。

量産段階:特許取得後、プレスリリース前の場合

量産が決まってくると、公開できる情報も増えてきます。

プレスリリースという形で会社から正式にホームページに情報出していったり、展示会にも開発中です、とか言って出せるようになってきます。

では、学会発表できるか。

ここでも、まあまあ難しい、です。研究/開発段階よりはマシかもしれませんが、まだまだ競合への情報漏洩は心配ですね。

あるとすると「認知向上」。この時点ならば、おそらく顧客が捕まっているはずです(量産できれば買ってくれるお客さんの目途はついているということ)。たとえば新たな顧客を探索するために、出せる情報だけ出して発表したりはします。この時は新規情報が極めて薄いので聴衆からするとつまらない発表になりがちですが。

このように製品化に向けて特許戦略は極めて重要ですし、新規系だと自分で戦略立てなければいけません。手塩にかけた研究、なんとか実用化したいですよね。そのためにはやはり担当者のレベルでも一生懸命考える必要があります。世間では色々と本も出ているのでそちらも紹介しておきます。
オオカミ特許革命


さて、ここまでで、研究/開発/量産、どこでも発表難しいということです。では発表しやすい時期はどこでしょうか?
答えを次に二つあげますね。

ココが狙い目①!事業化後、後継製品開発段階

ここは狙い目です。第一段製品の量産完了して、予定した顧客にそこそこ売れているとき。

企業としては売れるものは当然どんどん後継品を作っていきます。また販売した製品が良いモノであればあるほど様々な方面から製品の分析がかかります。

皆さんも新型 i-phone の分解記事とか見たことありませんか?一度世に出た製品はそういった形で中身のテクノロジーが公開されていきますし、販売している会社もそれが分かっているので、少しずつ技術的なところも公開していくのです。

この時期は公開可能な技術も増えていくので、そこに少し新規技術を加えて学会発表すればよい発表になるのです。

Nekoaceは、この状況での学会発表が会社での学会デビュー、自身の国際学会デビューでした。そのあたりの話も別で書いておりますのでよろしければ。

 

ココが狙い目②!製品撤退時

ここもありです。手掛けていた製品を会社が手放すことが決まった時。

これ自体は悲しいことですが、ある意味学会発表しなければいけない時期です。

上で書いたように、会社の中のプロジェクトは、会社/部署/上司全員の方針があった上で事業性が見込まれなければいけません。ですから、大体の製品は販売する前に中止になっていくわけです。

この時、技術自体は非常に優れているものだった場合、事業撤退すると外部に情報公開がされないまま闇に葬り去られる危険性があるのです。

あなたが製品担当者だとして、何年も開発に携わって、技術的にも世界一の部分がいくつかある製品が世の中に全く公開されずに闇に葬られること、許せますか?

会社のリソースを使って技術開発をしてきた以上、Nekoaceは世間様に公開して終わりにするべきだと思います。 そして、その思いが伝われば上司もおそらく公開許可は出してくれると思います。

だからこの時期、学会発表はかなりしやすい、と思います。

製品撤退時って、心がすごく疲れる時期で、「もう終わった製品のことは考えたくない」状態に陥る方もたまに見るのですが、そこをなんとか踏みとどまって発表して終わらせてあげる。これ大事です。

製品撤退時に論文化した体験談

ちょっと熱くなりましたが、実はNekoaceが前職を退職する直前にしていた仕事がこれでした。

何年も関わっていた製品で、すごく将来性があってオリジナリティも高い製品が、会社の方針変更でプロジェクト中止の憂き目にあったのです。私もプロジェクトクローズで方々に頭を下げてめちゃくちゃストレスかかった時期でしたが、なんとか最後に論文化に持ちこんでインパクトファクター10越えの有名雑誌に載せることができました。

おそらく前職の会社が今後この製品を復活させることはないと思います。

しかし、私の論文を読んだ誰かが、いつか実際に製品を作ってくれれば、わたしが頑張って開発していた甲斐があったなと思うのです。

最後に

今回は、企業研究者が学会発表する理由について書いてきました。

まとめていくと、自分が関わっているステージごとに外部発表のしやすさは変わってきます。

研究段階だと、守秘の観点から発表はかなり難しい。少しステージが進んで開発段階になるとさらに発表は困難になる。量産の段階になると少しずつ発表できる内容が増えてきて、第二段製品開発の段階になるとかなり発表がしやすくなる。

そして、実は最も発表しやすいのは製品撤退するときだ、ということでした。

Nekoaceはあくまで製品を世の中に出して売り上げていくことが一番偉いと思っているのですが、そのために学会発表が役立つシーンも必ずあると思っていて、自分の中で発表する基準とタイミングをきっちり決めて進めていけばきっと製品化の力にもなるのではないかと思います。

今回はこの辺で終わりにしようと思います。また。

 

最後にいつもの宣伝です。 会社の中でプロジェクトを持つならば、技術公開戦略は重要です。社内起業についてNekoaceの経験を詰め込んだnoteを書いているのでよろしければどうぞ。

産学連携をするときに注意してほしいことをまとめたnoteも書いています。こちらも合わせてどうぞ。無料記事です。

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