社会人博士体験記③ 大企業特有?学会発表の社内レビューが地獄だった話

社会人大学院体験記
著者紹介:Nekoace(猫壱), PhD, MoT
電機→素材と転職をまたいで一貫して新規事業畑。 モットーは「組織で唯一無二のポジションを取り続ける」&「社内政治を科学する」。 社会人博士で培った専門性を使った技術コンサルと、新規事業プロマネが得意。学位取得をきっかけにSNSでの情報発信を開始。
【経歴】 修士(理学) ⇒ 電機メーカーにて研究職10年(在籍中に工学博士と技術経営修士をダブルスクールし取得) ⇒ 素材メーカーにて開発職(Now!!)X
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ついに、入社3年目。念願かない初めての国際学会での発表が決まり、意気揚々と発表準備を進めていましたが、これが意外と大変で、何度も挫けそうになりました。

今回の記事のポイントはこちら

  • 「社会人博士課程に興味がある方」「サラリーマンでももっとハードワークできるぞ!と感じている方」に対してケースを提供すること
  • サラリーマンが外部発表するときのレビューの多さは尋常ではない!博士進学希望各位、良く覚えておいてね…(でも、社費で行く海外出張は本当に楽しい…!)

学会発表の社内レビューが地獄だったとは?

社会人大学院に興味を持っている方の中には、学生時代に学会発表した経験を持つ方も多いのではないでしょうか。

管理人は、理学部での一度目の修士の時代国内学会での発表経験がありました。物理系の最もメジャーな学会で、学生なりに自分の研究成果が世の中に出たことに対して大きな達成感を得た記憶があります。

企業研究者として発表が決まったとき(しかも、初めての国際学会での英語発表!)にも、「よしいっちょやってやるか」と意気込んでいましたが・・・

社会人で学会発表するのは特有の苦労があることを思い知るのです・・・  

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初欧州!初国際学会!初めての英語プレゼン!

Nekoaceは、会社派遣での社会人博士進学を見据え、新規事業に対する意欲をアピールしていました。そうした活動から、上司に可愛がってもらっていた(多分ね)ある日、海外での国際学会に推挙してもらえたのです。

私の当時の仕事は、既存事業向けのデバイスに使う新しい部材の開発でした。今でこそ新規事業専門にしてますが、この時の仕事は新規寄りではあるけど結局は既存事業向け。今思うとイージーゲームです。他にマーケ担当されている方がいて、商流も決まっていて、作れば売れる、そんな製品。

この部材は温度耐久性が重要課題として挙がっており、私はキーとなる熱シミュレーションを担当していました(温度不具合を事前予測する仕事です)。この仕事は、当時の会社としては新しい試みで、社内でもそこそこ注目されていました。

また私が担当していたシミュレーションの結果から、新しいデバイスの構成を考案し、国際特許の取得が決定しており、比較的評価されていた仕事でした。

参加予定の学会は会社が運営会社の一社として参加していたもので、部署から参加者を選定する必要があったのでしょう。私が選ばれたということ。学会でもこういう組織間のパワーバランス的な話結構あるんですよ・・・!

私も、発表先が初めてのヨーロッパということで、ぜひにと希望を出しました。そんな理由で、と思われるかもしれませんが、上司からもこの機会にいろいろ見て来いと言われていて、教育の一環という観点もあるようです。

ちなみに、入社直後から英会話やってましたが、最終的に続けたのは レアジョブ英会話 だけです。大手なのでおなじみですが、とりあえず無料体験してから大事なところ1カ月だけでも毎日やるだけで大分違うと思います。是非。

終わりの見えない発表準備

さて、初めての英語発表ということで緊張しながら発表に至るプロセスを進めていきました。これは学会によって多少差はあると思いますが、項目としてはほぼ同一だと思います。ちなみに、査読無しの国際学会オーラル(口頭)発表です。

私の場合、発表日の半年前ほどから準備を開始しました。プロセスは以下の通り。

  • 上司レビュー1
  • タイトルと概要提出(400word程度)
  • 上司レビュー2
  • 予稿提出(A4一枚程度)
  • 上司レビュー3
  • 渡航準備
  • 本プレゼン(スライド10-15ページ程度)

学会にまず提出するのは、タイトルと400word程度(A4で半分程度でしょうか)の概要です。
これは分量的に技術の内容はほとんど書けないので、発表の分野に基づいて、
背景(分野ではどのような研究が進んでいるのか)
目的(何を目的にした発表なのか)
方法(どんな実験を行ったのか)
結果と考察(得られた結果、何が分かったか。概要の時点では必須ではないかも)
が述べられていれば良いです。基本は文章だけです。

次に予稿です。これは簡単な論文だと思ってもらえれば良いですが、図の添付と引用文献を記載して、あとは概要の内容を少しだけ詳しく書いていきます。学会にもよりますが、後々まで残る文書になりますので、何度も推敲して良い文章になるように仕上げていきます。

本番のプレゼンは頂いた発表時間に合わせてパワーポイントで資料を作っていきます。この時は12分の発表でしたので、10-15ページ程度を目安に資料を組み立てていきました。

さて、これらのプロセスはまあ、学生時代にも経験があるのでよいのですが、問題なのは随所に挟んである「レビュー」です。 会社の名前で発表する場合、社内の様々な方から承認を得なければいけません。参考までに私の実績を書いておきます。

  • 係長レビュー:2回
  • 課長&部長レビュー:28回
  • 本部長レビュー:1回
  • 知財部門レビュー:1回

見間違えじゃありません。この凄まじさが分かりますね。28回。。。

落ち着きましょう。順を追って話します。まず係長レビューです。
当時の会社の場合、プロジェクトリーダーのクラスはこの職級である場合が多いです。そして、多くの場合、担当者と係長は一緒になって準備を行うので、ここのレビュー回数2回というのは問題になりません。むしろ2回も付き合ってもらってありがたい

本部長レビューもそんなに何度もやり直しということはない。本部長は忙しいので何度もレビューしてると上が困ります。

知財レビューは、発表内容を事前にどれだけ特許として外部公開しているかで、レビューの回数はだいぶ変わります。私の場合は、海外出願もしていて、そちらでしっかりと明細を書いていたので、ほぼ特許の内容から発表資料を作ることができました。

最後に回しましたが、課長&部長レビューです。
この28回という数字。私が実際にWordファイルを書き直して送付した回数です。
私の場合は日本語で大まかなストーリーを作ったとき、英訳したとき、指摘に合わせて修正したとき、でそれぞれ上司に確認を取っていました。 それぞれのプロセスで、私自身の至らない部分があり修正していくことも何度もありました。これはしょうがない。

一番困ったのは、課長に整合した内容を部長に持って行ったときに、発表目的から作り直しになったことです。今思い返しても恐ろしい。
何度も何度も指摘に合わせ微修正したものを上に持って行った結果、目的からまるっとひっくり返される恐ろしさ。 その指摘が合理的ならまだしも、思いつきとしか思えないものが多いのです。

私の場合、
課長レビュー → 部長レビュー → 課長レビュー → 部長レビュー → 課長レビュー → 部長レビュー → 本部長レビュー → 課長レビュー →部長レビュー ・・・
という風に何度も繰り返すので「課長&部長レビュー」です。メンタルやられそうになりましたね。。。

納期間近に突然承認されて拍子抜け

さて、発表準備は勿論重要ですが、同時に通常業務も抱えていて、度重なる修正の嵐に辟易したころに突如発表許可がおりました。
理由は簡単、原稿の提出納期が近づいたからです。 これはこれでがっくり来ますが、しょうがないとして、この度重なるレビューというものはなぜ起きたのでしょうか。アカデミアに所属されている方には分からない部分かも知れませんが、企業での発表はここが難しいのです。

アカデミアの場合、指導教員や共同研究している教員は、ほとんどがアカデミアでの発表経験が豊富です(当たり前です)。私の場合は、部長にアカデミアでの発表経験が無かったことが問題でした。

私が所属していたのは企業内の研究所でしたが、基礎研究よりは応用研究に重きを置く組織で、製品開発を行っている方は所内にたくさんいましたが、学術発表を日常的に行っている研究者は少数派でした。そして私の上にいた部長も学会発表経験がほとんどありませんでした。

だから、
目的と結果で異なる指摘をしたり(発表の中で主張は統一されていなければいけません)、
ノウハウの秘匿という名のもとにデータの削減を求められたり(こんなのアカデミアでは一般常識であってノウハウなんかじゃないヨと心の中で叫んでいる)、
妙な部分で部署宣伝の入れ込みを要請されたり、
と研究本来の趣旨と異なる指摘を受け、私の当初の原稿は当初作成のものとは似ても似つかぬ、一貫した主張も新規性も薄い発表となり下がっていったのです。

プレゼン当日!

そんなこんなで色々と思うところはありましたが、プレゼンテーションの準備に取り掛かりました。無事社内レビューを通過し、航空券と宿の手配をし、迎えた本番のプレゼンです。

欧州開催でしたが、日本の学会が主催している学会なので、日本人が半数程度、また、企業とアカデミアの比率も半々程度の学会でした。 前日夜には徹夜で発音をチェックし、何度も録音を聞き修正し、なんとか大きなトラブルもなく発表を乗り切りました

これまでの大変な準備が報われた瞬間です。発表後には何人もの方に、技術の詳細と方法について質問を受けて、若輩ながらアカデミアの一員になれたような気分でした。 他にも国際学会というものに初めて触れ、たくさんの刺激がありました。

まず、海外からの参加者は企業の方であれ、ほとんどがPhDを持っていること。日本人でもPhDホルダは勿論参加しているのですが、その比率が全く違いました。

そして、日本人の中でも社会人で博士号を取った方複数人にお話を伺うことができました。いずれの方も、業務と並行しての学業が大変だということをおっしゃっていましたし、人によっては、履修年次ギリギリで修了したという方もいらっしゃました。

あとは、学会とは関係ないのですが、会期中にプレゼンテーションを聞きながら席で果物をかじっている海外の研究者の方にはびっくりしました。大御所風の方で回りに何人も学生を引き連れていたのですが、なんというか、異文化を感じました。

準備期間では色々と苦労もあり、参加を取りやめたいと何度も思っていましたが、結果としては、アカデミアの空気を感じる良い機会となりました。

また、社会人博士の方の知り合いも増えて、自分も社会人博士に向けて本格的に進んでいこうという思いを新たにできました。

ちなみに、こんなに準備が大変だったのは、この時だけです。二回目以降の発表では、私自身が慣れたことと、アカデミアでの経験が長い上司の下に移ったので、レビューはせいぜい2-3回でした。今となってはいい思い出ですが。

まとめ

企業に所属している人が学会発表するときには、社内レビューという大きな壁があります。

あなたが所属している部署が対外発表に慣れていないのであれば、アカデミアでは感じないような障害が立ちはだかるかもしれません。部署の先人にリサーチしましょう。

それでも、海外での発表は間違いなく得るものは多いと思います。皆さんも機会を逃さずにチャレンジしてください。 それでは、今回はこの辺で。

 

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